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大阪高等裁判所 昭和61年(ネ)2012号 判決 1987年3月18日

控訴人

石田勝康

右訴訟代理人弁護士

家郷誠之

被控訴人

藤井徳三郎

右訴訟代理人弁護士

大深忠延

千田正彦

主文

原判決中控訴人の通行地役権確認の請求を棄却した部分を取消す。

右部分につき控訴人の訴えを却下する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じ控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が原判決別紙物件目録(一)、(二)記載の各土地につき、同目録(三)、(四)記載の各土地を要役地とする通行のための地役権を有することを確認する。

3  被控訴人は、控訴人が右目録(一)、(二)記載の各土地を通行することを妨害してはならない。

4  被控訴人は、控訴人に対して、右目録(一)、(二)記載の各土地上に設置した別紙図面記載のA、Bを結ぶ線上に所在するコンクリートブロック造り塀および同図面記載のC、Dを結ぶ線上に所在する鉄製扉を撤去せよ。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

6  仮執行の宣言。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次に訂正、付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(原判決の訂正)

原判決五枚目表九行目の「除しない」を「除去しない」と訂正する。

(控訴人の当審主張)

1  建売分譲地の被分譲人ら相互間に本件通行路につき黙示的・交錯的に通行地役権が設定され、右被分譲者から数次後の転得者である控訴人は、本件(一)、(二)の各土地につき本件(三)、(四)の各土地を要役地とする通行地役権を有する。

通行地役権は物権であり、その消滅事由は、放棄、承役地の時効取得、消滅時効の完成、解除条件の成就、混同、目的物の滅失、存続期間の満了、約定消滅事由の発生、対価の不払い、承役地の公用徴収等に限定されるところ、本件地役権について、これらの消滅事由は一切存在しない。

2  被控訴人は、本件通行地役権はその目的の消滅により消滅した旨主張するが、地役権にかような消滅事由はありえない。通行地役権は、一時的に通行しなくなつたり、通行の必要がなくなつたからといつて消滅するものではない。

控訴人は、現在、本件(三)、(四)の各土地に北接する同所六五番の四ないし六の各土地を取得し、同地上に賃貸事務所兼住宅の三階建の鉄筋ビルを新築してこれに居住している。本件(三)、(四)の各土地上の各建物は、昭和五八年ころまでに居住のために用いられることはなくなり、朽廃の時期にも入り、控訴人が右通行路を使用する必要は少くなつた。しかし、将来の経済事情の悪化によつては、控訴人が右ビルから退去してビル全部を賃貸し、控訴人自身は本件(三)、(四)の各土地上に建物を建てて居住する必要が生じることもありうるのであり、その場合には、本件通行路を使用する必要がある。

なお、本件(三)、(四)の各土地上にある建物は除却する予定であり、今後の再築は許されていないけれども、右ビル敷地と合わせて一敷地とした場合における増築は可能である(乙第四号証の一参照)。

(被控訴人の当審主張)

1  控訴人の当審主張1、2は争う。

2  通行目的の消滅、ないしは要役地の要役性の消滅は通行地役権の消滅をもたらすものである。

要役地所有者が将来承役地の通行を必要とする可能性があるということのみでは、通行目的の存続を肯定することはできない。要役地所有者が現に承役地を通行する必要のないときに、なお通行目的の存続を肯定しうるのは、現存の客観的事情のもとで相当の期間内に右の必要を生ずることが高度の蓋然性をもつて合理的に見込まれる場合だけである。なお、被控訴人は原判決事実摘示第二、三のうち「通行地役権の放棄乃至消滅」項記載の事実主張において、解除条件の成就による通行地役権の消滅をも主張するものである。

第三  証拠関係<省略>

理由

一当裁判所も、控訴人の本訴請求中一部は不適法として却下すべきであり、その余は理由がなく棄却すべきであると判断する。その理由は、次に訂正するほかは原判決理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

(原判決の訂正)

1  原判決理由一2を次のとおり改める。

<証拠>によれば、同人は、昭和二六年頃従前地を本判決別紙図面のとおり分筆し、右分筆後の各土地上に建築した居宅と共に分譲(建売り分譲)したが、右分譲に際し、各分譲地の購入者のため、従前地の北側及び西側に所在する各公道への(一)ないし(四)の各土地に居住する者らのための連絡通路及び全分譲地上の各住宅の便所の汲取りのための通路として、(一)ないし(四)の各土地の北側境界線から南側に、また六五番二の土地の東側境界線から西側に、いずれも一間幅の通路部分(本件通路)を鍵形に開設し、右分譲に際して各購入者に対し、その者の負担する通路部分を勝手に廃止し、又は同部分に建物を建築したりしないことを確約させたことを認めることができ、<証拠>中右の認定に反する部分は措信し難く、他に右の認定を左右するに足る証拠はない。

2  原判決八枚目表七行目の「本件通路は」の前に「また、六五番二の土地の東側部分の通路の幅は一三二センチメートルないし138.5センチメートルあり、」を挿入する。

3  原判決八枚目表九行目の「通路」を「北側と西側に所在する各公道に通じる通路」と、同裏三行目の「本件通路部分」を「分筆・分譲の際に開設された本件通路部分」と、同行の「公道」を「北側と西側に所在する各公道」と各補正する。

4  同八枚目表一一行目の「従前地所有者」の次に「山口義人」と、同裏四行目の次行に「したがつて、その後、前示のように、本件(三)、(四)の各土地を前所有者から転得した控訴人は、所有権に随伴する通行地役権を取得した(ただし、右(三)、(四)の両土地の間では通行地役権は混同により消滅した。)。」と各挿入する。

5  同八枚目裏五行目から九枚目裏六行目までの全文(原判決理由二)を次のとおり改める。

「二 1 被控訴人は、控訴人が本件(一)、(二)の各土地の一部を本件(三)、(四)の各土地の便益に供するための通行地役権を遅くも昭和五四年ころまでに黙示的に放棄したと主張する。しかし、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は(三)の土地上の居宅を昭和五七年頃から約一年間鶴田某に賃貸したことが認められ、また、原審における検証の結果によれば、控訴人は、本件通路のうち被控訴人が築造したブロック塀の東側から北側公道に接するまでの控訴人の所有ないし共有にかかる部分(以下、本件通路の東側部分という。)を通路の形状のまま保存していることを認めることができ、これらの事実によれば、被控訴人主張にかかる黙示の放棄がなされたと解することはできない。したがつて、右の主張は失当である。

2 被控訴人は、通行地役権設定契約に付された解除条件が成就したので地役権は消滅したと主張するが、前示通行地役権設定の経緯によれば、被分譲者相互間に被控訴人主張の解除条件を付した地役権の設定契約が黙示的に結ばれたと見るべき事実は認められず、他に右解除条件を付する合意が成立したことを認めるに足る証拠はないから、右主張も失当である。

3 次に、被控訴人は、本件通路が通行の用に供されず、本件(三)、(四)の各土地のための承役地としての効用を失つたことを理由として、本件地役権は消滅したと主張する。確かに、地役権を設定した目的(民法二八〇条)ないし承役地を用益する必要性が消滅した場合には、地役権の消滅時効の完成を待つまでもなく、地役権が消滅することがないとはいえないであろう。しかし、民法が承役地の時効取得による地役権の消滅および地役権自体の時効消滅につき規定した趣旨を勘案すれば、右要役地の要役性の喪失による地役権の消滅は、単に地役権の事実上の不行使状態がある程度継続したに過ぎない場合には、これを認めるべきではなく、地役権の行使が永久に不能となつた場合又は要役地に供されるべき便益が永続的に消滅した場合に限り、これを認めうるものと解するのが相当である。そこで、以下この点(控訴人の当審主張2を含む。)について検討する。

前記認定の事実のほか、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 控訴人は建設業を営むものであるが、昭和四六年本件(四)の土地を、同五四年に本件(三)の土地を各買い入れてこれを所有する(前示原判決理由一、1参照)。控訴人は、昭和四三年右土地に北接する同所六五番の五の土地を買つて転住してきたが、その後、前示のほか昭和四六年には六五番の四の土地を、同五四年六五番の六の土地を各買い増し、同五六年には六五番の二の土地を石田民子(共有持分三分の一)と共に買い受けて、その共有持分三分の二を有する。控訴人が所有する右各土地は別紙図面のように所在し、本件通路を挟み南側に本件(三)、(四)の各土地が、北側に六五番の四ないし六の各土地がある。また本件通路の東側鍵形部分は本件(四)の土地と六五番の二の土地の各一部からなる。

(二) 控訴人は、昭和五八年春ころ、六五番の四ないし六の土地(面積合計147.84平方メートル)上に居宅兼事務所鉄骨造り三階建ての建物一棟(建築面積125.812平方メートル。以下、単に「ビル」と称する。)を新築し、一階事務所を第三者に賃貸し、二、三階を居宅として使用している。控訴人は右ビルの建築に当たり、建築基準法五三条一項二号に定める建ぺい率の関係から、六五番の四ないし六と本件(三)、(四)の各土地(各土地のうちの通路部分を含む。面積合計115.1平方メートル)とを、一体をなす面積251.1平方メートルの敷地として建築確認申請をし、昭和五八年二月二日、右ビル完成後速やかに本件(三)、(四)の地上建物を除却する旨の条件付建築確認(乙第四号証の二)を受けた。そのため、本件(三)、(四)の各土地上に建物を存置することはもとより、新築することも法規上許されず、ただ、ビルを増築することは、条件次第では可能であるにすぎないこととなつた。ところが、控訴人は右各建物を除却しないため、大阪市建設局から数回にわたりその除却につき指導勧告を受けた(以上の点は当事者間に争いがない。)。なお、右ビルの裏側すなわち南側には出入口がない。

(三) 控訴人は本件(三)の地上建物を前記のとおり昭和五七年に一時鶴田に貸したことがあつたが、遅くも昭和五八年までには、本件(三)、(四)の地上建物は居住の用に供されなくなり、現在は老朽化した居宅のままの状態で袋詰めの建築資材などの倉庫として使われている。控訴人は六五番の二の地上建物を車庫などに利用している関係もあり、右倉庫への出入には主に本件通路の東側部分を使用している。

(四) 本件通路は、前記認定のとおり、各分譲地上の建物の便所汲取口への通行と本件(一)ないし(四)の各地上建物の居住者が公道に出るために、いわば生活用通路として開設されたものであつたが、昭和四五年ころ各戸とも水洗式便所に改造したため汚穢運搬のために使うことはなくなつた。その後、下村は六五番の七の土地上に三階建てビルを新築したが、その裏・南側に出入口を設けず本件通路を使うことはない。六五番の三の土地に住む比嘉は裏・南側に出入口を設けているが、本件通路の東側部分を利用しており、西側部分を通行することはない。

本件通路には、昭和三三年ころ、町会が防犯用街路灯四基を設置し、その使用電気代は北と南に面する一〇戸が分担してきた。現在は別紙図面記載の位置に街路灯二基が残存し、うちの街路灯は控訴人が昭和五七年一二月に現在地に移設、修理などしたが、現在は点灯されていない。そして各土地の所有者が大きく入れかわつたので費用負担の現況は明らかでない。

(五) 被控訴人は、昭和五八年控訴人がビルを新築した際、本件(三)、(四)の各土地上の通路部分をほぼ全面的に資材などを置いて一時的に閉塞したこと、被控訴人以外の者による本件(一)、(二)の各土地上の通路部分(本件通路の西側部分)を使う頻度が著しく減つたことなどから、同土地部分を宅地として使うことを検討し、調査を始めた。その結果、控訴人所有の本件(三)、(四)の各土地上の建物が近く除去されることを知り、本件通路の西側部分を通行すべき居住者もいないので他人の迷惑にもならないと判断して、昭和五八年九月、別紙図面記載のA、Bを結ぶ直線と(一)、(二)の各土地の北側境界にブロック塀を、同図面記載のC、Dを結ぶ直線上に門扉を各設けた(被控訴人が事前にブロック塀の設置を控訴人に連絡したことを認めうる証拠はない。)。その結果、控訴人および下村の各所有ビルの南側外壁面とブロック塀の北側面の間に約五〇センチメートル幅のコンクリート敷の東西に通り抜けることのできる空地部分が残つている。

(六) 本件通路の西端の部分は、西側の公道より高いため、その開設当初から三段の石段が設けられており、西側道路から本件通路への自動車の出入は不可能である。

(七) 控訴人は、昭和五八年九月ころ、被控訴人がブロック塀を設置した直後に用心が悪いと称して本件通路東側公道への出入口(幅員約一三八センチメートル)にブロックを積み上げ、雑木、丸太、板など多数を置いて閉塞し(検乙第三、四号証参照)、同年一〇月一七日本訴を大阪地方裁判所に提起したが、その後、同所通路幅の三分の一程度だけ通行可能な道をあけている(昭和六一年一月二八日検証調書添付写真⑥参照)。また、控訴人は、本件通路のうち本件(三)、(四)の土地と六五番の二ないし五の各土地との境界に沿う部分については、その通路としての状態を維持しており、その使用目的を変更した形跡はない。

(八) 控訴人は、本件通路のうち本件(一)、(二)の各土地上部分を通路として使用する必要性につき、本件(三)、(四)の各土地上の建物を取り毀した後いわゆる住居地域(建築基準法二条二一号、都市計画法八条一項一号)内にある同土地を第三者に転売したときに買受人は幅員二メートルの通路があるかぎり建物を新しく建て替えることができるから、あるいはビル増築の折にはその通行の必要が生じる可能性もあるからと述べる。

以上の事実が認められ、右認定に反する原審における証人藤井幸子および控訴人本人の各供述部分は前掲各証拠と対比して未だ採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実関係によれば、従前地を分筆して建売分譲のなされたのち三〇年余を経て、各土地所有者は一変し、その利用状況も変化して、本件通路の実態は、控訴人が本件(三)、(四)の各土地上の建物を倉庫として代用するようになつたため、右各土地を要役地とする限り、生活用通路としての意味は失われたものの、なお、代用倉庫への連絡通路としての利用価値を留めていること、右の建物は早晩除却されるべきものであるとはいえ、現に使用されていること、及び本件通路の状況も、その両端の出入り口が著しく狭められているものの、その余の部分は依然として通路としての形状を保つていることが明らかである。してみると、本件通路は、その使用頻度が激減したとはいえ、その効用を喪失し、或いはその必要性が消滅したということはできないから、本件地役権の行使が永久に不能となつたことはもとより、その要役地に供されるべき便益が永続的に消滅したことも、否定されなければならない。

したがつて、本件通行地役権は目的の消滅ないし要役性の喪失により消滅したとする被控訴人の主張も、理由がない。

4  進んで、被控訴人の権利濫用の抗弁につき判断する。

(一) 前記判示のとおり、

① 控訴人は本件通路に接する宅地のうち、本件(三)、(四)の各土地及び六五番の四、五、六の各土地を所有し、また六五番の二の土地につき三分の二の共有持分を有し、その結果、本件通路のうち本件(三)の土地の西側境界の東方に存する部分(本件通路の東側部分)は、全部控訴人の所有又は共有持分に属すること、

② 六五番の四、五、六の土地上に控訴人が建築所有する建物には、本件通路に出入りするための出入り口は設けられていないこと、

③ 本件(三)、(四)の土地上に控訴人が所有する建物は、建築基準法上存在を許されないものであり、当局から除却を指示されていること、

④ 本件(三)、(四)の土地は、本件通路のうち右各土地の北側に存する部分と共に、控訴人自身の申請により、建築基準法上前記六五番の四、五、六の各土地上に存する控訴人所有の建物の敷地とされており、そのため、地上に建物を建築することは許されないこと

が明らかである。

(二) 原審における検証の結果によれば、本件通路が北方の公道と接する部分及び西方の公道と接する部分は、共に公道よりも高く、特に本件通路の西端の部分には三段の石段が設けられて、公道から昇るようになつていること、及び被控訴人は本件通路のうち本件ブロック塀から右の石段までの間を主として公道から自宅に出入りするための通路として使用しており、玄関に設けた庇の先端が若干通路上にはみ出しているほかは、通路上に建築物を設置していないことが認められる。

(三) これらの事実を考え合せると、控訴人は、自ら申請して本件(三)、(四)の各土地を六五番の四、五、六の土地上に建築した建物の敷地とし、その結果法令上本件(三)、(四)の各土地を建物の存置又は建築をなしえない土地としながら、その地上建物を除却するようにとの行政指導に従わず、これを除却しないばかりか、居宅たる建物を倉庫として代用し、同建物への出入りのためにのみ本件通路の通行を必要としているに過ぎないものであり、仮に近い将来同建物を除却しても、その跡地は庭園、園芸用地又は雨ざらしの物置場として利用する以外には用途がないと考えられるところ、いずれの利用方法を採る場合においても、本件通路の東側部分を利用して北方の公道から出入りすれば、その使用目的を達するものということができる。

(四) ところで、控訴人は、被控訴人に対して本件(一)、(二)の各土地上の通路部分(本件通路の西側部分)について通行地役権を主張して通路の妨害排除を求める理由として二点述べたのは前記したとおりである。まず、将来におけるビル増築をいう点は、増築により東西に通じる本件通路を分断してその西側のみの通行を求めるに等しく、それは相互に交錯的に設定された東西に通じる本件通路の通行地役権の設定目的に適わないものであり、用益の方法としては許されない形態であろう。次に、本件(三)、(四)の各土地を第三者に転売するために本件通路の西側部分の確保を求めることも、前記ビルの敷地として一体利用を約し地上建物の除却を予定した建築確認申請の内容に照らせば背信的な理由といわざるを得ない。とりわけ、右各土地上にある二棟の建物を除却することを遷延している現状のもとでの転売は建物付土地の転売を意味することになり、転買人が建物を建て替えるとき、本件通路のうち二メートル以上の幅員のある西側部分の通行が不可欠となる。すなわち、本件通路の東側部分が公道に接する出入口の幅員は約一三八センチメートル、比嘉の所有する建物に南接する通路幅員は約一七二センチメートル(前示検証見取図参照)であり、その幅員は1.8メートルに満たない。その通路だけを使用しうるのでは右第三者が建物を新築する場合、この幅員の点において建築基準法四二条二項、「建築基準法第四二条第二項の規定による道の指定」(昭和三九年七月一日大阪府告示第五七八号)に抵触することになるからである。

(五) また、控訴人は、前記のように被控訴人が本件通路の西側を閉塞すると直ちに、その東側端の出入口を閉鎖して相互に地役権を有する比嘉および被控訴人の通行を妨げる行動に出たことがあり、現在も東側部分の一部に建築工事用の資材などを置いている。

なお、被控訴人は、昭和五八年九月、本件ブロツク塀を設置したことから通行地役権を放棄したと見るべきかについては同ブロック塀は半永久的な堅固な工作物ではなく、控訴人に対して放棄する旨を伝達したこともないのであるから、右設置をもつて控訴人に対する放棄の意思表示があつたとは認め難い。

(六) 以上(一)ないし(五)に認定説示したところを総合判断すると、以下のとおりである。

控訴人に至る前の被分譲者が本件(三)、(四)の各土地を要役地とし本件(一)、(二)の各土地の一部を承役地とする通行地役権を設定した目的は、相互に要役地であると共に承役地として北側と西側の各公道に接し鍵形の経路で東西に通り抜けられること、つまり本件通路を通行できることにある。各被分譲者相互の間で交錯的に設定された各地役権は共通の目的のために存立するものであるから、控訴人が有する本件(一)、(二)の各土地の一部に対する通行地役権から東西に通じる通路という基本的性格を無視して単に右西側部分を通行できる権能だけを主張しそれに対応した利用形態を前提として右地役権を行使することは右設定目的に反し信義則上許されないものというべきである。もつともそうした場合においても通常地役権の確認を求めうるのであるが、信義則上これを許し難い特段の事情がある場合には例外がないとはいえない。

しかして、まず控訴人は倉庫として代用している前記二棟の建物の出入りと、同建物を除却したときの跡地の用途に応じた出入りのために東西に通じる本件通路を通行する必要はあり、そうした通路の一区画に該る本件(一)、(二)の各土地の一部につき通行地役権をもつものである。ところが、控訴人が本件通路の西側部分の確保を求める理由の第一は、将来におけるビル増築、それは本件通路を分断せざるを得ない、設定目的に反した要役地の要役内容(同時に他の地役権者の承役地の承役内容)を実現するためであり、第二は東西に通じる本件通路を通路として使用するものの建築基準法に定める規制を潜脱する土地利用の目的を達するためである。控訴人は前記二棟の建物を大阪市建築局から数次にわたる除却勧告を受けながら約四年の長きにわたりこれに応じない。また、本件通路の東側部分の出入口(控訴人の共有地)には通路幅員の約三分の二を閉ざす妨害物を置き、同通路上の一部には資材を置くなど、現に通行目的に反した利用を続けている。

以上の諸点によれば、控訴人が被控訴人に対して通行地役権に基づく妨害排除・妨害予防請求権を行使することは信義則に反し許されない。

また、控訴人は、現在本件通路を通行する必要があるのは、法律上存置を認められない建物に出入するためであり、その建物から公道に出入するには本件通路の東側部分の通行により十分目的を達するにも拘らず、当該部分の一部に資材を置いて通行の目的に反した利用を続け、しかも、将来本件通路のうち自己所有の土地上に建物を増築して本件通路の西側部分のみを通行するという、本件地役権の設定目的に反する用益をするため、又は本件通路に面する自己の所有土地を建築法規の規制を潜脱する方法で利用するために、本件通行地役権確認の訴えを提起したものと言うべきであり、かかる訴えの提起は、信義則に反し訴権の濫用に当たるから、不適法と言わなければならない。

したがつて、控訴人の本訴請求中通行地役権に基づく妨害排除及び妨害予防を求める部分は、理由がないから棄却すべきであり、本訴のうち通行地役権の確認を求める部分は不適法であるから、訴えを却下すべきである。」

6  原判決九枚目裏七行目の「三」を「四」と改める。

二よつて、原判決中控訴人の通行地役権確認請求を棄却した部分を取消して該部分に係る控訴人の訴えを却下し、原判決中その余の部分は結論において正当であり、当該部分に関する控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大和勇美 裁判官大久保敏雄 裁判官稲田龍樹)

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